
親が年金を受け取っておらず、老後の生活資金も十分にない──。そんな状況に直面したとき、子ども世代はどこまで負担すべきなのでしょうか。突然の仕送りや同居の提案に戸惑う方も少なくありません。

この記事では、親と世帯を分ける「世帯分離」や、制度面での対処法をわかりやすく解説しながら、自分自身の将来を守るために今からできる備えについても考えていきます。
- 親が無年金のときの子の負担を整理
- 世帯分離の基本と活用メリットがわかる
- 子どもができる現実的な対処法を紹介
- 将来に備える資産形成の大切さを伝える
- 親が無年金で老後資金なしの人は生活保護を受けられる?
- 無年金で老後資金なしの親と世帯分離するメリットとデメリット
親が無年金で老後資金なしの人は生活保護を受けられる?
日本では高齢者の貧困問題が深刻化しており、「親が無年金で老後資金なし」という状況に直面する家庭も少なくありません。
年金を受給できない親を支えることが経済的に厳しい場合、生活保護の利用を検討する人も多いでしょう。
ですが、生活保護は誰でも受給できるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。
ここでは、無年金の親が生活保護を受けられるのか、また受給するための具体的な条件や手続きを詳しく解説します。
親が無年金で老後資金なしの人はどれくらいいる?
厚生労働省の「後期高齢者医療制度被保険者実態調査」(令和4年度)によると、65歳以上で年金収入がない人は50万2806人にのぼります。
これは同世代の総人口の約2.7%に相当します。
このうち約40万人は事業収入や給与収入、不動産収入もない、完全な無収入の状態です。
無年金の理由としては、以下のようなケースが挙げられます。
-
年金の納付期間が足りなかった
2017年8月以前は、年金を受給するために25年以上(300カ月)保険料を納める必要がありました。しかし、この条件を満たせなかった人が多く、無年金状態に陥っています。現在は10年以上(120カ月)納めれば受給資格を得られますが、過去に納付していなかった人は依然として無年金のままです。 -
会社が年金保険料を未納のまま放置していた
一部の企業では、社員の年金保険料を適切に支払わず、結果的に従業員が無年金になってしまうケースがあります。 -
自営業者やフリーランスで年金を払っていなかった
自営業者やフリーランスの人は国民年金の加入が義務付けられていますが、経済的理由などで支払いを怠った結果、無年金になってしまうことがあります。
無年金の親がいる場合、子どもが経済的負担を抱えることになり、生活そのものが厳しくなる家庭も多いのが実情です。
参考:厚生労働省「後期高齢者医療制度被保険者実態調査」
無年金の親は生活保護を受けられるのか?受給条件を解説
生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度ですが、受給には厳格な条件があります。
無年金の親が生活保護を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
最低生活費が収入を下回っている
生活保護の受給要件の基本は、「世帯の収入が最低生活費を下回っているかどうか」です。最低生活費は地域ごとに異なりますが、例えば75歳以上の単身世帯であれば以下の金額が目安となります。
地域区分 | 最低生活費(月額) |
---|---|
1級地-1(都市部) | 約12万円 |
2級地-1(中都市) | 約9~10万円 |
3級地-2(地方) | 約7~8万円 |
親が無年金で収入がない場合、この最低生活費を満たすだけの収入がなければ、生活保護の対象となる可能性が高いです。
扶養義務者の援助が受けられない
生活保護は「扶養義務者(主に子どもや兄弟姉妹)による援助が困難な場合」にのみ受給できます。市区町村の福祉事務所は、申請を受けると扶養義務者に対して「扶養照会」を行い、援助の可否を確認します。
ただし、近年は扶養照会を厳格に行わない自治体も増えており、「子どもが援助できない」ことが合理的に説明できれば、親の生活保護申請が通るケースもあります。例えば、以下のような理由があれば扶養義務を果たせないと判断されることがあります。
-
子ども自身も低所得で生活が苦しい
-
子どもとの関係が悪く、長年連絡を取っていない
-
すでに親の借金などで経済的に困窮している
親に資産がない
生活保護を受けるには、親が一定の資産を持っていないことも条件です。例えば、持ち家がある場合は原則として売却し、その資金を生活費に充てることが求められます。ただし、以下のようなケースでは持ち家を維持したまま生活保護を受けることが可能です。
-
持ち家に住み続けることが健康上必要(要介護の親など)
-
売却しても生活費にならないほど資産価値が低い
-
リバースモーゲージなどの制度を利用できない
また、一定額以上の貯金がある場合は、貯金を使い切るまで生活保護は受けられません。
生活保護と年金、どっちが得なのか?
無年金の親を抱える家庭では、「年金をもらえないなら生活保護の方が得なのでは?」と考える人もいるかもしれません。
生活保護と年金の違いを整理すると、以下のような特徴があります。
項目 | 生活保護 | 年金 |
---|---|---|
受給条件 | 所得が最低生活費を下回る | 保険料納付期間が10年以上 |
支給額 | 地域ごとの最低生活費に応じる | 納付額に比例 |
医療費 | 全額無料(医療扶助) | 1~3割自己負担 |
住居費 | 家賃補助あり | なし |
受給中の制限 | 資産保有不可、働くと減額 | 資産保有OK、働いても減額なし |
生活保護は手厚い補償がありますが、持ち家や資産を手放す必要があるなどの制約もあります。一方で、年金を受給している場合は資産の制約がなく、自由度が高い生活が可能です。
また、生活保護を受けていると親の立場では「住宅ローンを組めない」「クレジットカードを作れない」といった金融面でのデメリットもあります。
どちらが得かは一概には言えませんが、「生活保護に頼るか」「何らかの収入を確保して生計を立てるか」は慎重に考える必要があります。
親に生活保護を受けさせたいときの具体的な手続きは?
無年金の親が生活保護を受けるためには、以下の手続きが必要です。
-
市区町村の福祉事務所へ相談
-
生活保護申請書を提出
-
資産調査・扶養照会が行われる
-
審査後、受給が決定
親が無年金で経済的に困窮している場合、生活保護を受けられる可能性は十分にあります。
ただし、資産や扶養義務などの条件をクリアする必要があるため、事前に福祉事務所で相談することが大切です。
無年金の親の生活費はどうすればいい?活用できる支援制度
親が無年金で老後資金がない場合、生活費の捻出が大きな課題になります。
無収入の親を支え続けるのは子どもにとっても大きな負担です。そこで、利用できる公的支援制度を活用することが重要です。
生活保護制度の利用
生活保護は、最低限の生活を維持するために必要な費用を支給する制度です。収入や資産が最低生活費を下回る場合に受給できます。生活費のほか、家賃補助、医療費、介護費用などもカバーされます。
高額介護サービス費制度
介護保険サービスを利用する場合、1カ月の自己負担額には上限があり、一定額を超えた分は払い戻されます。親が要介護認定を受けているなら、介護費用の負担を大幅に軽減できます。
生活福祉資金貸付制度
無年金の親を支えるために一時的な資金が必要な場合、自治体の社会福祉協議会が提供する「生活福祉資金貸付制度」を利用できます。低利または無利子での貸し付けが可能です。
医療費助成制度
医療費の負担を減らすために、各自治体が提供する医療費助成制度を確認しましょう。生活保護を受けていなくても、一定の所得以下であれば助成を受けられる場合があります。
リースバック・リバースモーゲージ
親が持ち家を所有している場合、「リースバック」や「リバースモーゲージ」を活用して資金を得る方法もあります。
リースバックは家を売却しながら住み続ける制度、リバースモーゲージは持ち家を担保にして融資を受ける制度です。
このように、公的支援制度を最大限活用することで、無年金の親の生活費を確保する方法は複数あります。
自治体の窓口で相談することが大切です。
80歳で生活保護を受けるといくらもらえる?
生活保護で受け取れる金額は、住んでいる地域や家族構成、必要とされる費用によって異なります。
高齢者単身世帯の場合、生活扶助のほか、住宅扶助、医療扶助などが支給されます。
生活扶助の金額(2024年時点)
地域区分 | 生活扶助(月額) |
---|---|
1級地-1(東京など大都市) | 約8万円 |
2級地-1(中都市) | 約6万5000円 |
3級地-2(地方) | 約5万5000円 |
住宅扶助
家賃を支払う場合、住宅扶助が別途支給されます。
例)東京都23区内の単身高齢者 → 上限5万3700円
医療扶助
生活保護を受給していると医療費は全額無料になります。薬代も含めて負担がなくなるため、高齢者には非常に大きなメリットです。
介護扶助
要介護認定を受けている場合、介護サービスの費用も生活保護でまかなえます。
80歳で無年金の場合、生活保護の受給額は生活費・家賃・医療費を含めて月額約12万円~14万円程度となることが多いです。
生活保護を受けると親の資産や家はどうなる?
生活保護は「資産を活用しても生活が維持できない人」を対象とするため、一定の資産がある場合は原則として処分する必要があります。
持ち家は原則処分が必要
生活保護を受けるためには、自宅を売却して生活費に充てるのが基本です。
ただし、以下の条件に当てはまる場合は例外として持ち家を維持できることもあります。
-
介護が必要で、引っ越しが難しい場合
-
住宅ローンを完済しており、処分してもほぼ価値がない場合
-
生活保護を抜けた後も住み続ける見込みがある場合
預貯金は一定額までしか保有できない
預貯金が一定額以上あると、まずはそれを使い切ることが求められます。一般的に「生活費の1カ月分以内」が認められる上限とされています。
車の所有は原則不可
都市部では車の所有は認められませんが、公共交通機関が少ない地域では例外として認められることもあります。
資産の扱いについては、自治体ごとに異なるため、申請前に相談することが重要です。
親が認知症でも生活保護は受けられる?施設入居の費用と条件
認知症の親でも生活保護を受けることは可能です。特に、在宅介護が困難な場合は施設入居の選択肢もあります。
生活保護で入居できる施設
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特別養護老人ホーム(特養)
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介護療養型医療施設
-
介護医療院
これらの施設は生活保護受給者でも入居可能で、費用も生活保護から賄われます。
認知症があっても生活保護が受けられる条件
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認知症により日常生活が困難であること
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収入や資産がないこと
-
扶養義務者の援助が難しいこと
施設入居の際も生活保護で負担されるため、介護の負担を軽減できます。
年金がない親の医療費はどうなる?負担を減らす方法
無年金の親がいる場合、医療費の負担が大きな問題になります。
以下の方法で負担を軽減できます。
生活保護を受ける
生活保護を受ければ、医療扶助により医療費は全額無料になります。
高額療養費制度
収入が少ない場合、医療費が一定額を超えた場合に払い戻しを受けられる制度です。
自治体の医療費助成
低所得の高齢者向けに医療費の助成を行っている自治体もあるため、確認してみましょう。
無年金の親の介護費用を抑えるには?特養の費用や助成制度
無年金の親を介護する場合、子どもにかかる負担が非常に大きくなります。
介護費用がかさむことで家計を圧迫し、経済的にも精神的にも追い詰められるケースが少なくありません。
ですが、公的支援制度や費用を抑える方法を活用することで、負担を軽減できます。
ここでは、特別養護老人ホーム(特養)を含めた介護施設の費用、助成制度について詳しく解説します。
介護施設の種類と費用の違い
介護施設にはさまざまな種類があり、それぞれ利用料金が異なります。
無年金の親を受け入れやすいのは、比較的費用が安い公的施設です。
施設の種類 | 費用相場(1カ月) | 特徴 |
---|---|---|
特別養護老人ホーム(特養) | 6万~15万円 | 公的施設で費用が比較的安い |
介護老人保健施設(老健) | 8万~15万円 | 短期間のリハビリ目的での入所 |
グループホーム | 12万~20万円 | 認知症患者向けの小規模施設 |
有料老人ホーム(民間) | 15万~40万円 | サービス充実だが高額 |
特養は公的施設であり、入居費用が安く抑えられるため、無年金の親にとって最も現実的な選択肢となります。
特別養護老人ホーム(特養)とは?
特養は公的な介護施設で、原則として要介護3以上の高齢者が対象となります。民間の老人ホームと比べて利用料が安いため、人気が高く、入居待ちが発生することも珍しくありません。
【特養の費用内訳】
特養の費用は、介護度や所得に応じて異なりますが、一般的な負担額は以下の通りです。
-
居住費(部屋代):1万~5万円
-
食費:3万~5万円
-
介護サービス費(1割~3割負担):2万~6万円
合計すると月額6万円~15万円程度が必要となりますが、収入が少ない世帯には助成制度があります。
介護費用を抑えるための助成制度
負担限度額認定制度
低所得の高齢者が特養に入所する場合、「負担限度額認定証」を取得すれば食費と居住費が軽減されます。
負担段階 | 本人の収入(年金など) | 預貯金額 | 居住費(多床室) | 食費 |
---|---|---|---|---|
第1段階 | 生活保護・無年金 | 1,000万円以下 | 0円 | 3,000円 |
第2段階 | 年収80万円以下 | 650万円以下 | 3,000円 | 6,000円 |
第3段階 | 年収120万円以下 | 550万円以下 | 10,000円 | 12,000円 |
特養の費用が全額負担できない場合、役所で「負担限度額認定証」を申請することで、食費や居住費を抑えることができます。
高額介護サービス費制度
介護保険を利用した際に、自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。
- 住民税非課税世帯:月24,600円が上限
- 生活保護受給世帯:月15,000円が上限
この制度を活用すると、介護費用の負担を大幅に軽減できます。
生活保護の介護扶助
生活保護を受給している場合、介護費用は全額国が負担します。要介護状態の無年金の親がいる場合、生活保護の申請を検討することも選択肢の一つです。
介護用品の助成
在宅介護をしている場合、「おむつ代補助」や「介護ベッド貸与制度」などの支援が自治体ごとに用意されています。地域の役所やケアマネージャーに相談しましょう。
年金を払っていない親は老後どうなる?救済制度の有無
年金を払っていない親は、老後にどのような生活になるのでしょうか。
年金が受給できない場合、収入がゼロとなり、生活費や医療費の負担が大きな問題になります。
ですが、完全に無収入の状態を回避するための救済制度も存在します。
無年金の親の生活状況
年金を受給していない場合、収入源がなく、以下のような状況に陥る可能性があります。
-
家賃・生活費を払えない
-
医療費の負担が重い
-
介護費用を支払えない
-
子どもに依存せざるを得ない
無年金者向けの救済制度
年金生活者支援給付金
年金を受給できる資格がある人のうち、一定の所得以下の人が対象の制度です。月額約5,000円~6,000円が支給されますが、受給資格には注意が必要です。
生活保護
生活保護を受けると、生活費、医療費、介護費用が全額支給されます。無年金の親にとって、最も現実的な支援制度の一つです。
生活福祉資金貸付制度
高齢者向けの無利子または低利の貸付制度で、収入がない高齢者の生活費を一時的に補助する制度です。
無年金の親の面倒をみるのが不安…対策と支援の活用法
無年金の親を抱えると、子どもにとって経済的・精神的な負担が大きくなります。
「自分の生活もあるのに、親の生活費や介護費をどうすればいいのか」と悩む方も多いでしょう。
ここでは、親の面倒をみる際に活用できる支援制度や負担を軽減する方法を紹介します。
負担を減らす方法
-
公的支援制度を活用する
- 生活保護
- 介護保険制度
- 高額医療費制度
- 生活福祉資金貸付
-
世帯分離を検討する
- 親と同居していると扶養義務が発生しやすいが、世帯分離すると負担が軽減される場合がある。
-
地域包括支援センターに相談
- 地域の福祉サービスを利用し、介護負担を減らす。
-
家族間で負担を分担する
- 兄弟姉妹がいる場合、介護や経済的支援の分担を話し合う。
無年金の親の面倒をみるには、公的支援をフル活用し、家族全体で負担を分散させることが重要です。
無年金で老後資金なしの親と世帯分離するメリットとデメリット
無年金で老後資金がない親を抱える家庭にとって、「世帯分離」は重要な選択肢の一つです。
世帯分離を行うことで、生活保護を受けやすくなったり、医療費や介護費用の負担が軽減されたりする可能性があります。
ですが、逆に思わぬデメリットが発生することもあるため、事前にしっかりと理解しておくことが大切です。
世帯分離とは?親と同居しながら住民票を分ける仕組み
世帯分離とは、同じ家に住んでいても住民票を別々にすることを指します。
日本では、同じ住所に住んでいる家族は基本的に「同一世帯」として扱われますが、役所に申請すれば「別世帯」として登録することが可能です。
世帯分離の具体的な手続き
- 市区町村役場に行く(親と子どもそれぞれの身分証明書を持参)
- 住民異動届を提出する
- 世帯主を変更し、世帯分離を申請
- 新しい住民票を発行してもらう
この手続きを行うことで、同居しながらも別世帯として扱われるようになり、所得や税制、福祉制度の適用が変わることになります。
無年金の親と世帯分離することで得られるメリットとは?
無年金の親と世帯分離を行うと、以下のようなメリットがあります。
-
生活保護を受けやすくなる
親と子どもが同一世帯の場合、子どもの収入が考慮され、親の生活保護申請が却下されることがあります。しかし、世帯分離をすれば、親の収入だけで判断されるため、生活保護を受けやすくなります。 -
医療費の自己負担額が減る
住民税非課税世帯になることで、国や自治体の医療費助成制度を受けられる可能性が高くなります。 -
介護サービスの負担が軽減される
介護保険サービスを利用する際に、世帯分離によって低所得扱いになれば、利用料が減額されることがあります。 -
税金や国民健康保険料が安くなる
世帯分離により、親が住民税非課税世帯になると、国民健康保険料が軽減されることがあります。
世帯分離をしても生活保護を受けられないケースとは?
世帯分離をすれば必ず生活保護を受給できるわけではありません。
以下のようなケースでは、世帯分離をしても生活保護が認められない可能性があります。
-
親に一定の資産がある場合
たとえば、持ち家や貯金がある場合、それを生活費として使い切るまで生活保護は受けられません。 -
子どもの収入が十分にあり、扶養義務を果たせると判断された場合
役所が「子どもが親を十分に扶養できる」と判断すると、世帯分離をしても生活保護が認められないことがあります。 -
親が必要な書類を提出しない場合
生活保護の申請には厳格な審査があるため、必要な書類を提出しないと認められません。
世帯分離をすると後悔する?失敗しないための注意点
世帯分離には多くのメリットがありますが、場合によっては後悔するケースもあります。
特に、手続きを十分に理解しないまま行うと、かえって生活が不便になったり、経済的な負担が増えたりする可能性があるため、慎重に判断することが大切です。
後悔する主なケース
-
扶養控除が適用されなくなり税負担が増える: 世帯分離をすると、子どもが親を扶養控除の対象にできなくなり、所得税や住民税の負担が増える可能性があります。年間で数万円~十数万円の増税になるケースもあるため、事前にシミュレーションしておくことが重要です。
-
介護サービスの利用負担が逆に増えることがある: 世帯分離により、親が住民税非課税世帯になり、介護保険の自己負担が減るケースが多いですが、一部の自治体では、世帯分離によって利用できなくなる助成制度もあります。自治体ごとに違うため、事前に役所で確認しましょう。
-
生活保護を申請しても扶養照会が行われる可能性がある: 世帯分離しても、子どもに収入があると生活保護の申請時に扶養照会が行われることがあります。「世帯が別だから親の生活に関与しない」としても、扶養義務があるため、役所から問い合わせが来ることがあります。
-
親が将来的に施設に入る際の費用負担が増える: 親が特別養護老人ホーム(特養)などに入所する際、世帯分離の影響で施設の入所審査や費用負担に影響が出る場合があります。世帯分離によって低所得者向けの減額措置を受けやすくなるケースがある一方で、自治体によっては制限があるため注意が必要です。
失敗しないための注意点
世帯分離で生活保護を申請する際の手続きとポイント
世帯分離をすることで、親が生活保護を受けやすくなる場合がありますが、申請手続きにはいくつかのポイントがあるため、事前に準備をしておくことが重要です。
生活保護申請の基本的な流れ
-
福祉事務所に相談
- 生活保護の受給資格があるかを確認する
- 収入・資産の状況をチェック
-
世帯分離の手続きを完了させる
- 市区町村役場で世帯分離の届出を行い、親と子どもが別世帯になる
-
必要書類を準備して申請
- 生活保護申請書
- 預貯金の通帳、年金受給額の証明書(年金未納の場合は不要)
- 家賃の契約書(賃貸住宅の場合)
-
役所の審査
- 扶養義務者(子ども)への扶養照会が行われる
- 役所の職員が親の生活状況を訪問調査
-
生活保護の受給開始
- 申請から1~2カ月後に結果が通知される
申請時のポイント
-
資産がある場合は売却や処分が求められる
-
貯金が一定額以上あると、まずそれを使い切らないと生活保護は受けられない
-
車や持ち家がある場合も、処分が必要になることが多い
-
-
扶養照会を回避できるケースを確認
-
子どもに収入があると、役所が「扶養できるかどうか」の確認をする
-
ただし、「長年連絡を取っていない」「すでに仕送りしている」などの理由があれば、扶養照会が免除されることもある
-
親が生活保護を受けることのデメリットとは?
生活保護は、最低限の生活を保障する制度ですが、受給することで発生するデメリットもあります。
親が生活保護を受けることによって、子どもにも影響が及ぶケースがあるため、事前にメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。
資産の保有が制限される
生活保護を受給するには、まず親が所有する資産(貯金・不動産・車など)を処分する必要があります。
例えば、以下のような資産は原則として持つことができません。
-
預貯金(一定額以上は認められない)
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自宅(持ち家)(売却を求められる場合がある)
-
自動車(特別な理由がない限り処分が必要)
持ち家があっても、売却が難しい場合や、高齢者向けの住宅支援が利用できる場合は例外となることがあります。
生活保護を抜け出すのが難しい
一度生活保護を受けると、そこから脱却するのが難しくなるケースが多くあります。特に高齢者の場合、新たな収入源を確保するのが難しく、生活保護の受給が長期化しやすいのが現実です。
扶養照会が行われる可能性がある
親が生活保護を申請すると、福祉事務所が子どもに「扶養できないか」を確認する扶養照会を行うことがあります。これにより、子どもが役所から仕送りを求められる可能性があります。
ただし、最近では扶養照会を行わない自治体も増えてきており、扶養義務が免除されるケースもあります。
クレジットカードやローンの利用が難しくなる
生活保護を受けていると、基本的に借金やローンを組むことができません。また、クレジットカードの新規発行や住宅ローンの申請も難しくなるため、将来的な選択肢が狭まる可能性があります。
周囲の偏見やプライバシーの問題
社会的には生活保護に対する偏見が根強く残っているため、親が生活保護を受けていることを周囲に知られたくないと感じる人も多いです。また、申請時には収入や生活状況を詳しく報告する必要があり、プライバシーがある程度制限されることになります。
世帯分離と扶養義務、親の面倒はどこまで見るべき?
世帯分離をしたとしても、子どもには法律上の「扶養義務」が残ります。
これは、親が経済的に困窮した場合、可能な範囲で援助を行う義務のことです。
ですが、扶養義務の範囲は曖昧な部分も多く、具体的にどこまで負担すべきか悩む人も少なくありません。
扶養義務とは?
扶養義務は、民法第877条で定められています。
直系血族(親・子ども)および兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負う。
つまり、親と子どもはお互いに経済的に支え合う義務があるということです。
参考:WIKIBOOKS「民法第877条」
実際に子どもがどこまで親の面倒をみるべきか?
法律上の扶養義務があっても、実際には以下のような事情を考慮し、必ずしも全面的に支援しなければならないわけではありません。
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子ども自身の生活が厳しく、金銭的な援助が難しい場合
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親との関係が疎遠で、長年連絡を取っていない場合
-
親の借金が原因で困窮している場合
このようなケースでは、役所に事情を説明すれば、扶養義務が免除されることもあります。
よくある質問Q&A10選
Q1:親が年金をもらっていない場合、子どもが生活費を出す義務はある?
A:扶養義務はありますが、収入や生活状況に応じて判断されます。必ずしも全面的に負担しなければならないわけではありません。
Q2:親と世帯分離をすると、どんなメリットがありますか?
A:生活保護などの支援制度の対象になりやすくなる可能性があります。親と子の家計を分けることで、子の負担軽減にもつながります。
Q3:世帯分離には届け出や手続きが必要ですか?
A:はい。住民票の住所や生活実態などが基準になります。役所に相談することで正確な方法を教えてもらえます。
Q4:無年金の親が生活に困っていても、同居していないなら支援しなくてもいい?
A:支援が必要とされるケースもありますが、親子が別世帯であれば、状況によっては公的支援の優先度が高くなることもあります。
Q5:親が老後資金を持っていないと、子どもの家計にも影響しますか?
A:仕送りや介護費用など、金銭的な支援が発生することで、自分の生活や将来の資金計画に影響が出ることがあります。
Q6:生活保護を受けさせると、子どもの名前や収入も調べられますか?
A:親族の扶養照会はありますが、必ずしも金銭支援が求められるわけではありません。世帯分離をしていればより柔軟に対応されることもあります。
Q7:兄弟が複数いる場合、誰が支援すべきかはどう決まりますか?
A:兄弟間で話し合いが基本ですが、公的な判断は収入状況などをもとに行われます。全員に均等な義務があるわけではありません。
Q8:親が無年金であることを本人が隠しているケースもありますか?
A:あります。親世代は年金やお金の話をしにくくする傾向があるため、早めに状況を確認し、将来のトラブルを避けることが重要です。
Q9:自分の将来のために今からできる備えは何ですか?
A:貯蓄や家計管理はもちろん、投資や資産形成の知識を身につけることも大切です。将来親と同じ状況にならないように意識することが第一歩です。
Q10:親のことをきっかけに、自分の老後を考えるのは変ですか?
A:まったく変ではありません。多くの人が、親の経済状況を通じて「自分はどう備えるべきか」と気づいています。行動を始める良いタイミングです。
親が無年金で老後資金なしの人は生活保護を受けられる?世帯分離のメリットのまとめ
最後にこの記事のポイントをまとめました。
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